商売の才能

私の父親は、経営者として成功しなかった。私が、小学校高学年の頃に、勤めていた保険会社を辞めて、起業した。当時は、携帯電話が普及し始めていて、携帯電話の販売代理店を作った。

話は上手で、コミュニケーションも得意な方だ。よく飲みに行って、交友関係も広かった。しかし、人の悪口が多く、実際にコツコツやれるタイプではなかった。そして、従業員を数名雇ったが、指導する能力がなく、部下は放置されていた。肝心の営業も、本人は小心者で、ガツガツ飛び込む行動力がなく、会社は成長しなかった。

その結果、2〜3年で会社を畳むことになり、父親(私の祖父)からお金を借りて、精算した。その後、単身、東京へ行き、出稼ぎという形で、家族を養ってくれた。

私が大学生になったときに、地元に戻り、元々銀行員だった友人と共同で会社を立ち上げた。NTTの代理店となり、通信回線の営業の会社を作った。

しかし、そこでも、友人と揉めて、その友人が会社を去るような形となった。その後も、従業員を何人か雇ったが、父親が望むような働きをしてくれないため、トラブルは絶えなかった。最終的には、二度目の挑戦も失敗に終わり、実家の財産を食い潰すような形となり、今は、おとなしく隠居生活をしている。

父親は、人の上に立つような人間ではなかった。そして、人から支持されたことができるような人間でもなかった。ただ、トークのスキルは極めて高かった。時代や、環境が変われば大きな成功を収められたのではないかと思う。

この父親から学べることは、人には適性があるということだ。父親には、経営者の素質はなかった。そこに自分で気づけなかった。だから、失敗した。自分の適性が何なのか学ぶ教材となり、父親にはとても感謝している。